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超電導磁気相転移新現象発見 - マグネット応用に革命 -

(平成22年8月25日)
財団法人国際超電導産業技術研究センター 、国立大学法人 九州大学

{ 新聞発表記事 }

(財)国際超電導産業技術研究センター(理事長:勝俣恒久)及び国立大学法人 九州大学(総長:有川節夫)は、 (独)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの受託研究「イットリウム系超電導電力機器技術開発」プロジェクトにおいて、Y系超電導線材 。*1)の研究開発を共同で行っている。この中で、開発中のY系超電導線材において、今まで知られていなかった超電導体の新たな磁気的相転移現象が発現すること、さらに、その結果として、第二種超電導体*2)に特有の履歴損失*3)(交流損失の主因)が従来理論から逸脱し大幅に低減することを、世界で初めて見出した。この発見は、従来理論に基づくY系超電導線材の低損失化の指針を根底から覆し、新たな材料学的開発指針を与えるとともに、各種超電導の応用開発にも革新をもたらす新現象(“岩熊効果”と称す)の発見と期待される。  この発見は、発電機、モータ、変圧器、SMES(超電導磁気エネルギー貯蔵)システム、ケーブル等の電気機器のみならず、医療用のMRI、癌治療用重粒子線加速器、さらには高分子構造解析用NMR等の磁界を用いる直流機器に至るまで、すべてが、Y系超電導線材を用いて、容易にかつ安価に実現できるようになったことを意味する。 従来、第二種超電導体は、電流、磁界が一定である直流磁界中では電気抵抗に起因したジュール発熱がゼロで通電が可能である(但し、on/off 時等での磁界変動、増減の際は磁化・履歴損失がある)。一方、交流通電に代表される変動磁界中では、磁界の増減に合わせて、履歴損失(交流損失の主因)が発生する。そのため、完全に損失ゼロとは言えず、交流超電導システムでは超電導線材の発熱に対しての冷却が外部侵入熱に対しての冷却に加えて必要となる。履歴損失は、臨界電流密度と超電体の径(幅)の積に比例する。よって、これまでの第二種超電導体を用いた超電導線材では、特性向上として臨界電流密度の向上を図ると、その見返りとして、履歴損失も増大し、その低減のために細線化(フィラメント化)が唯一の解決策であった。しかしながら、今回見出した新現象は、線材の特性(臨界電流密度及びその均一性)の向上を図ると、この新現象の発現が顕著になり、履歴損失が減少し、従来の概念と真逆のものとなる。

詳細は、今秋開催予定のCCA(Workshop on Coated Conductors for Application、10月28-30日、福岡)、ISS(International Symposium on Superconductivity、11月1-3日、つくば)で発表する予定である。

【共同研究の機関】

国立大学法人九州大学http://www.kyushu-u.ac.jp/
総 長有川節夫福岡県福岡市西区元岡744番地
財団法人国際超電導産業技術研究センター東京都江東区市東雲一丁目10番13号
理事長勝俣恒久福岡県福岡市西区元岡744番地

図-1

(独)科学技術振興機構理事長 北澤宏一先生のコメント
「今回の発見は、学問的にも非常に興味深く、電磁気界の新たなテーマとして解明されることを期待する。また、これまで困難とされてきた洋上の超大型風力発電を実現可能とするなどの画期的な発見であり、人類の課題であるエネルギー問題を解決する切り札となると考えられる。」




用語集

*1) Y系超電導線材

イットリウム系超電導材料を用いたテープ状の材料である。送電ケーブルやマグネットなどの応用機器を作製するための素材として必要である。超電導材料が酸化物であることから、そのままでは長尺テープ形状を形成することが困難である。そこで、金属基板(ハステロイTM等)上に薄膜状に超電導材料を形成する手法が用いられている。イットリウム系超電導材料は結晶に対して電気を流す方向によって特性が異なる特性(電気的異方性)を有していることから、結晶粒の方位を揃えること(配向)が高い特性を得るために必要である。この結晶粒配向を実現すること及び超電導材料と金属基板との反応を抑制することを目的として、超電導層と金属基板との間に別の酸化物を挟んだ構造をとっている。(図参照)既に500m長以上で300A/cm幅以上の臨界電流を有する線材が実現されており、日米で熾烈な開発競争が行なわれている。

図-2

(Y系超電導材料)

イットリウム系超電導材料とは、90K(ケルビン)級で超電導現象を起こすY(イットリウム)を含む化合物のことである。高温超電導材料の中で銅酸化物高温超電導に分類され、Y系高温超電導体、Y系銅酸化物高温超電導体とも書かれる。 化学式はYBa2Cu3Oyである。初めて液体窒素温度(77K)を超える転移温度をもつ超電導体としてヒューストン大学のチュー教授らによって報告された。 結晶構造は酸素欠損型のペロブスカイト構造であり、Yを他の希土類元素に置換しても同一の結晶構造をとり、90K級の転移温度を示す。また、磁場中での特性に優れているなどの特徴をもち、もっとも研究されている高温超電導体である。

図-3

*2) 第二種超電導体

超電導体は、磁気的特性により、第一種超電導体と第二種超電導体に区別される。第一種超電導体は、臨界磁界m0Hc以下の磁界領域では完全反磁性(マイスナー状態)を示し、これ以上の磁界を印加すると超電導状態が壊れて常電導状態に転移する。これに対し、第二種超電導体は、二つの臨界磁界を有し、下部臨界磁界m0Hc1以下では第一種超電導体と同様に完全反磁性を示すが、これ以上の磁界中では、磁束が量子化されて超電導体に侵入するが、超電導状態を維持する。これを混合状態と呼ぶ。一般に言う磁束ピンニング現象が発現するのはこの混合状態においてである。この混合状態は、上部臨界磁界m0Hc2まで維持され、これ以上の磁界で常電導状態に転移する。実用に供されている金属系低温超電導体NbTi、Nb3Snをはじめ、酸化物高温超電導体BiSrCaCuO、YBaCuO等はすべて第二種超電導体である。

図-4

*3) 履歴損失

MRI、NMR、マグレブのような直流仕様の超電導機器は、電気抵抗ゼロにより、損失ゼロで動作する。これに対し、電力機器のような交流仕様の超電導機器では、電気抵抗ゼロによりジュール損失はないが、第二種超電導体の本質である磁束の量子化とピンニング現象により、磁界の変動にともなって履歴損失を生じる。今回の新現象は、この履歴損失の大幅な低減をもたらすので、損失が極めて小さい交流超電導機器の実現が期待される。

[  説明図 ]
新たな電磁現象の特徴

1)ゼロ磁化

図-5

斜め磁界中で、外部磁界を増加から減少、もしくは減少から増加に転じる際に、Y系超電導線材の磁化が消え、ゼロ近傍の値をとる。バイアス磁界中では(高磁界中では)、顕著に発現。温度を下げると、もっと顕著に。